自分の個性を育てながら他人のことも尊重する、そんな漱石の「私の個人主義」

夏目漱石の「私の個人主義」は、学習院大学に夏目漱石がゲストとして呼ばれて、学生に語った講演録です。現在では、青空文庫で読むことができます。青空文庫ボランティアスタッフの皆様、ありがとうございますm(_ _)m

国家のために生きるべしという「国家主義」の考え方が大きな勢いを持っていた時代に、それへの反対の立場として、「個人主義」という考え方を語ったもののようです。

もっとも、漱石が語る個人主義は、「国家主義」の立場の人間がいうような、「国家ではなく個人が大事」といった、単に国家主義の考え方に対立する概念ではありません。漱石なりの個人主義、すなわち「私の個人主義」です。

漱石は、「私の個人主義」の内容として、本講演で、大きく2つのことを述べています。

  1. 自己の個性を発展させるべし
  2. 他社による個性の発展を尊重すべし

他人の受け売りではなく、自分の感じたことを大切にすること。それが、自分の個性の尊重です。漱石は、他人の考えの受け売りをしている限り、いつまで経っても自分に自信が持てず、幸福になれないと考えます。個人が幸福になるためには、自己の個性の尊重が不可欠といいます。

個人の自由は先刻お話した個性の発展上極めて必要なものであって、その個性の発展がまたあなたがたの幸福に非常な関係を及ぼすのだから、どうしても他に影響のない限り、僕は左を向く、君は右を向いても差支ないくらいの自由は、自分でも把持し、他人にも附与しなくてはなるまいかと考えられます。それがとりも直さず私のいう個人主義なのです。

夏目漱石「私の個人主義」

このとき、自分の個性を尊重するということが許されるならば、他人が他人を発展させることも尊重しなければなりません。特に、金持ちや権力者は、金や権力を使って、自分の個性を他人に押し付けることが可能です。だからこそ、個性を尊重するという自由には、必ず義務が伴うことが肝に銘じなければなりません。自分の個性を他人に押し付けられるようなパワーがある人間ほど、そうならないよう、自分の人格形成をしなければなりません。

もし人格のないものがむやみに個性を発展しようとすると、他 を妨害する、権力を用いようとすると、濫用 に流れる、金力を使おうとすれば、社会の腐敗をもたらす。ずいぶん危険な現象を呈するに至るのです。そうしてこの三つのものは、あなたがたが将来において最も接近しやすいものであるから、あなたがたはどうしても人格のある立派な人間になっておかなくてはいけないだろうと思います。

夏目漱石「私の個人主義」

この漱石の考え方は、今の憲法の基礎にもなっている、自己実現という考え方によく似ています。憲法は基本的に「他人を害しない限りにおいて自由にしてよい」という考え方だからです。

僕には、特に1つ目の講演内容が心に響きました。僕はいろいろなことを知るために、そして生き方の参考にするために、多くの読書をします。しかし、読書をするだけだと、他者の受け売りの領域を出ません。このことについては、自分自身悩んでいました。

自分の感じたありのままを、表現してこその個人主義。これから、自分の考えるところを発信・実践していけるように頑張ろう!

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